変電社社主代理持田です。今回はレビューでありません。以前より「そもそもで広大なデジタルアーカイブの中から何をヒントに『変な電子書籍』をピックアップしてるの?」やら「どういう環境で読んでいるの?」やら「某図書館サイトのビューワーだと閲覧しづらいからなんとかして」やら、いくつかお問い合わせやクレーム(当社で対応できないものも含めて)頂いていたので、改めて「変電活動実践マニュアル」めいたものをちゃんとまとめて開陳したいと考えています。
が、いきなり大人げなく言い訳から始めると、これ個人的に試行錯誤の末に編み出したどうにも不細工な活動スタイルなのであくまでこれは一事例だと認識ください。なので「もっと良いハックがありますよ!」みたいな声あらば是非ご教示ください。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回は漁り先として僕が中心的に漁っている先ではありますが、「国会図書館デジタル化資料」の中の「近代デジタルライブラリー」(以下「近デジ」)とします。こちら2013年3月現在:蔵書数約34万点を誇るだけあって興味深いコンテンツが大量に隠されておりこここそ人海戦術で暴き立てるに越したことはありません。また近デジを漁る行為を「近デジ漁」と勝手に命名したいと思います。
前置き:変電活動心得近デジ漁編
まず近デジ「漁」の心得といいますか心構えといいますか、改めて認識をしておきたいのですが、
ここは「図書館」です。「ストア」ではありません。
失念しがち(僕が)ですが、公共空間なので一切の「本屋大賞」帯、スタッフ手書きPOP、文脈棚、バナー特集パワープッシュ、これ読んだ人はこちらレコメンなんてものは存在しません。ので、その内なる声を勝手に代弁しておくと、
貴様が求める「本」は自らの眼で探し自らの手で取れ多少読みづらくとも図書館だから無料だよ
ということになると思います。当たり前すぎて代弁するまでもない!
ちなみに「無料だよ」は「今のところは」ということもちゃんと認識しておきたいとこです。有料利用案含む「長尾構想」上にあるとすればです
なので変電活動というものは、改めて振り返ってみて自分でもシンプルすぎて少々驚いたんですが、現状未整備状態の「電子図書館」を無理矢理愉しんでしまっている。だけです。なわけで本記事は「夜明け前の電子図書館」の楽しみ方講座でもあります。
STEP1 :コンテンツを探す前に
やはり漁である以上、ある程度アーカイブスの海にあたりをつける必要があります。いきなり広大な海洋を相手にしてもやはり魚影すら見えずどうにも掴みどころ無く終わります。そのためには今一度逆算して考えた方がいいかもなので、「近デジ」とはそもそもで何か?をもう少し追求したいと思います。
■「近デジ」おさらい
「近デジ」とは「国立国会図書館デジタル化資料」のうち、しかるべき権利処理を実施して利用可能になった図書・雑誌約34万点(現在)をインターネットから検索・閲覧可能にしたサービスです。その「国立国会図書館デジタル化資料」とは、国会図書館が原資料保存と原本に代えて公衆に提供するために、1968年までの図書・古典籍・雑誌などの出版物をデジタルデータ化(OCRなし)した約240万点(現在)のことです。なので館内閲覧と比較して、およそ8分の1のみネット閲覧が可能ということです。
また国会図書館サイトでの近デジ説明(「このデータベースについて」)でも、まず「遠隔サービスを拡充して利用者の利便性を向上させると共に、原資料をより良い状態で保存することを目的」であるとしています。やはり図書館ならではで、この目的意識は各ストアにはないわけですから、この「保存」が第一義だと頭に入れておくと「遠隔サービスを拡充して利用者の利便性」に関してはきっと細やかな政治的配慮などもあって少々後回しになっている。ということを踏まえれば「何も目くじらを立てることもないな」と気持ちの余裕が生まれます。
■収録資料について
近代デジタルライブラリーに収録されている資料の多くは、当館の前身である帝国図書館の蔵書だったものです。近代という時代を検証するのに重要な資料となっています。「このデータベースについて」
国立国会図書館デジタル化資料「近代デジタルライブラリー」
ここ非常に重要な事実で、国会図書館の前身は戦前の「帝国図書館」です。ゆえに酒井潔『エロエロ草紙』のようないわゆる「発禁本」をも含むわけですが、そもそも「帝国図書館」に戦前の発禁本が所蔵されているかその流れは、戦前検閲制度に関してもおさらいしないといけないわけですが、今回は飛ばします。以下の講座にてとても詳しく記載されてますのでご紹介しておきます。
また少し寄り道しておくと、その結果どのような本が発禁処理されて現国立国会図書館に保存されているかというと、「読書猿」中の人がサイトで随分以前からリストアップしており敬服しておりますが、
上記記事に発禁書リストが載ってますので、少し記事が古いので現在はもう少し分量がありそうですが、興味ある方はこのラインからもあたりをつけてみてください。
そういったわけで、これら発禁本を含む明治期から昭和前期にかけての「近代という時代を検証するのに重要な資料」群であることがやはりわかります。
もう一つ重要なポイントがあります。仮に歴史的価値を持つ資料であっても著者が居る限り著作権がありますから、ネットでの公開に際してはちゃんと権利処理をしないといけない。国会図書館サイト「■著作権処理について」を確認すると「近デジ」のWEBにて公開されている資料は「著作権法第23条の公衆送信権についての著作権処理が完了したもの」のうち
- 「著作権の保護期間満了を確認できた資料」
- 「著作権者の許諾を得られた資料」
- 「著作権法第67条に基づく文化庁長官裁定を受けた資料」
となっています。1番目は著作権者没後50年による権利切れ作品、2番は著作権者許諾をもらった作品、そして3番目はいわゆる著作権者不明による「オーファン」=孤児作品です。著作権法で各方面で活躍されている福井健策弁護士が最近の活動で特にこの問題を取り上げていますが、
驚くなかれ、各種の調査では、世の中のあらゆる作品・資料の50%かそれ以上が孤児著作物だ。たとえば、英国では大英図書館で著作権期間中の可能性のある書籍の約43%、ミュージアム所蔵の写真は実に90%、米国では学術資料の50%が権利者不明という調査結果がある。日本では、国会図書館の明治期図書の著者のうち71%は連絡先どころか没年も判明せず、TV番組や記録フィルムもかなり高率で権利者が不明とされる。
「そろそろ本気で『孤児作品』問題を考えよう」
2013.3.12 INTERNET Watch
なんだそうです。昨日3月27日開催の第8回コンテンツ流通促進シンポジウム『著作物の公開利用ルールの未来』でも福井氏がオーファン問題解消のためのCC(クリエイティブコモンズ)ライセンス普及推進を訴えておりましたが、そもそもでこれの何が問題か?というとその著者が何者であるのかさえ不明であり「没年も判明せず」没後50年後著作権切れの確定がつかないあげく、仮に存命であったとしても
作品・資料を利用しようにも許可が取れないのだ。複製してネットなどで公開しようとすれば、著作権者の許可がいる。権利者が見つからないからといって、無許可で使えば著作権侵害となってしまう。突然権利者が現れて高額の賠償請求でもされたら大変だ、そう考えて二の足を踏むケースが大半だろう。
「そろそろ本気で『孤児作品』問題を考えよう」
2013.3.12 INTERNET Watch
ではそのまま手が付けられないのか?といえば、そういうわけではありません。
オーファン作品を「著作権法第67条に基づいて文化庁長官裁定」でもって公開できる制度があり、それを国会図書館も実行して3の「オーファンだけど文化庁裁定で公開作品」も混ざることになります。
ちょうど先日レビューで取り上げたのドン・ザッキー『白痴の夢』野村吉哉『三角形の太陽』あたりがそうなります(が、こちら実は著者没年判明しているんですよね。ともに何故か2012年3月1日文化庁裁定が降りているみたいなのですが、この裁定は5年更新らしいので、2017年にはもしかすると『白痴の夢』は公開取り下げられて『三角形の太陽』は保護期間満了扱いになるんでしょうかね)。
もっともその「文化庁裁定」が貰えるまで「相当な努力」と呼ばれる作業が必要で、各主要名簿名鑑類の確認に始まり、またその作家が居住していた地区が分かればその自治体図書館、その著者が所属した学会・団体・協会が分かればその各組織への問い合わせ、はては尋ね人告知を新聞・雑誌広告かホームページ掲載し、さらにクリック(公益社団法人著作権情報センター)「権利者を探しています」ページからも相互リンク掲示を2ヶ月実施して「様々な手段を尽くしても見つからなかった」ことが明確になって、ようやく裁定が降りるという大変なものです。
そのため福井弁護士はもっと簡便な裁定制度作りの提唱と今後出される出版物に関しては最初から、CCライセンスを実施しておけばオーファンにならずにすむからとCCライセンスの普及を強く訴えており、もちろん変電社としても賛成です。
ちなみに国会図書館デジタル化資料のうち上記三通りの権利処理の割合というのが、某筋からこっそりお伺いしたところ「1」が70%弱、「2」が数%、「3」が30%弱だという情報も頂いてます。※詳細が分かり次第出典明記します。
また変電社が国立国会図書館転載依頼フォームから「外部転載許諾」を何度も問い合わせた結果
- 「著作権の保護期間満了を確認できた資料」→全コマ(全頁)転載許諾OK
- 「著作権者の許諾を得られた資料」→表紙利用くらいまでなら許諾とれる?
- 「著作権法第67条に基づく文化庁長官裁定を受けた資料」→外部転載NG
ということも大枠理解できました(もっともいくつか例外も起きておりあくまで変電社としての前例母数では上記になりそうというニュンアンスです)。「1」は比較的容易に全コマ掲載許諾が取れます。ちなみにサイトからの再配布も可能です。なので変電社も準備遅れまくってますが、いくつかの許諾済みコンテンツを再配布予定です。こちら少々お待ちください。
といったわけで、こちらを一つ海図として頭に入れておくとよいかと思います。
というのも、変電社は単に「電子図書館」を愉しみながらも、面白いコンテンツがあれば改めて電子なり紙なりで復刊したいと企んでおり(『ガガガーリンプロジェクト』等)国立国会図書館を漁場として考えた場合にわりと容易に転載許諾とれるコンテンツに越したことはありません。
ただし3割のオーファン作品も、わざわざ「文化庁裁定」という面倒な作業までしてくれた作品が「近デジ」サイトからPDFダウンロードできるというのは実にかけがえのない価値があり、非常にDopeな「レアグルーブ」領域になります。青空文庫もそこまで実行できていません。
であれば、これぞという面白いオーファン作品を「近デジ」コンテンツの中で発見してしまった暁には、変電社も該当コンテンツを正式な手続きを通して文化庁裁定を得て公開してしまえばいいじゃないか!と思い立ちました。その手続きの大変な手間も含めて変電社でオーファン作品公開プロジェクトにもなるじゃないか!と。
といったわけでどのコンテンツもそのコンテンツが面白くさえあれば「前へ進む」ということで、今回の変電活動実践講座Step1 前知識として「近代デジタライブラリー」おさらいを終えます!また長くなりましたが!
次回、Step2からちゃんと「実践講座」とします。上記の「海図」を元にどう選定して、どう手に入れて、どう読んでいるのか?の個人的な近デジ漁の現場を公開いたします!
Step2へつづく
“楽しい変電活動実践講座 Step1 海図として「近代デジタルライブラリー」おさらい【持田泰】” への1件の返信