『技師ガーリン』A・N・トルストイ【レビュー及び復刊プロジェクト宣言】

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『技師ガーリン』A・N・トルストイ

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『技師ガーリン』(コマ数279)
シリーズ名:ソヴエト・ロシア探偵小説集
著者:アレクセイ・N・トルストイ 訳者:広尾 猛
発行日:昭和5年(1930) 出版社:内外社
国立国会図書館デジタル化資料「近代デジタルライブラリー」

※31日0:31追記 ごめんなさい!リンク間違えでボグダノフ『赤い星』のURLへ誘導しておりました!現在修正済みです!

さてこちらも昨日のイベントでトリを飾らさせていただいた1920年代戦前ソ連の圧巻のSFです。いやーこれは釣りました。来た。大物です。しかも最初はこっそりこんな感じで見付けました。

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タイトル「ソビエトロシア探偵小説集」って。シリーズ名じゃないですか。開いてみたら『技師ガーリン』!僕は全然知りませんでしたが!『新青年』昭和12年(1937)2月増刊号上で当時の各人気作家に本邦初海外ミステリベスト・テン選ばせた際、あの海野十三がランクインさせております。

海野十三「海外探偵小説十傑」
『813』 ルブラン
『水晶の栓』 ルブラン
『僧正殺人事件』 ヴァン・ダイン
『技師ガーリン』 トルストイ
『グリーン家の惨劇』ヴァン・ダイン
『狂龍殺人事件』 ヴァン・ダイン
『黄色の部屋』 ルルウ
『スミルノ博士の日記』 ドウーゼ
『モンパルナスの一夜(男の頭)』 シメノン
『和蘭陀靴の秘密』 クヰーン

海野が堂々4番目に取り上げた作品であり、他は今も読まれてもいる古典ミステリです(※同じく読み継がれていない北欧のクライン呼ばれたドウーゼが含まれていますが、小酒井不木訳本を見付けましたのので後日!)。

本作読んだらどえらい面白かった!ガチでこれはオススメであります!
この作品に出会えた幸運にクラッカーでも鳴らして一人祝してやりたい気分です。そのため昨晩のイベントレビューは熱量だけでレコメンドしてしまいましたが、しかし本作を「探偵小説」って枠で呼んでしまったら可哀想で、SF・ミステリ・冒険・スリラー・サスペンスの要素が全てぐっちゃぐっちゃに放り込まれており、またソ連的が正義そこかしこに展開もされていますが、単なるポルシェヴィキ体制順応型の堅物小説ではありません。型破りなソ連的ピカレスクロマン(悪漢小説)です。複数の素敵な登場人物が跋扈しているわけですが、タイトル通りこの『ガーリン』こそが主人公であり、これがまた毒々しいロシア的ド悪党です。

舞台となる1920年代における現代SFですが、これを今読んだ場合かえって歴史改変物のスチームパンクに読めてしまう。科学的にも今はおそらくは反証されてしまっているんであろう戦前サイエンスを徹底化しているような衒学的な知識もかえって美味しくいただけます。僕らの21世紀からの視点から時代換算したような情状酌量をしなくていい。

あらすじ
192x年、レニングラード(現サントペテルブルグ)近郊クレスト河別荘地。発見された一体の変死体。本来はそこで殺されるべきであった男「ガーリン」が世界を塗り替える。天才エンジニアでありマッドサイエンティスト・ガーリンが偶然に生み出した悪魔の技術「双曲線體」。そこから発せられる刺し貫かれないものはこの世に存在しない「殺人光線兵器」を片手に舞台はレニングラードから巴里、巴里からベルリン・ナポリ・地中海へと1920年後半破裂寸前の欧州を縦横無尽に駆け回り、大西洋からアメリカ、太平洋。そして「黄金島」へ。

キャラも冴えます
巴里の高級娼婦でありまたポルシェヴィキロシアを心底憎む亡命ロシア人にて絶世の美女、ゾーヤ・モンローズ(マダム・ロワール)。
ソビエト的正義の体現者でありそれゆえに最後までガーリンに対するジョーカーのような役割を担うソ連邦刑事探偵部シェリガ。
世界の重化学工業のドンであり莫大な富を持つ悲劇の王ローリング。
アリゾナ號船長、海賊の子孫であり忠誠なるマダム・ロワールの近衛兵ヤンセン。

それぞれの思惑・企みが錯綜交差して、もはや破れかぶれとも取れるような物語展開の「思いがけなさ」は痛快です。この突進力はなんだ?底抜けに明るい。戦前の生きのいいソ連人だったからこそこんな面白い小説が生み出せたのか。はわかりませんが、何故本作が戦後日本では埋もれてしまっているのかよくわかりません。

作者A・N・トルストイについて
作者アレクセイ・ニコライヴィッチ・トルストイは『戦争と平和』レフ・トルストイの遠縁の親戚筋に当たるような記述もweb上であるのですが、ロシア語wikipediaにも詳しい記載がなくいまいち定かではありません。もっとも、アレクセイ・トルストイ自身もソビエト連邦時代にスターリン賞三回・レーニン勲章等の三勲章授与され人気を誇ったもう一人の国民作家トルストイです。
ほかも映画史に詳しい人ならご存知のロシアアバンギャルド映画『アリエータ』原作者でもあり、本作『ガーリン』も65年にモノクロ73年にカラーで2回映画化されています。

なお埋め込みNGでしたがこちらで73年版映画が見れますよ!

Крах инженера Гарина 1 серия /4

もちろんロシア語です。

また小説自体のロシア語原著で2002年版でamazonで手に入るようです。今でもちゃんと読み継がれています。
にも関わらず、日本では現在、国立国会図書館近代デジタルライブラリーでしか読めません!まだまだ結構眠っていそうな予感がしてまいりました!
なお本作国立国会図書館より全コマ転載の許諾を正式にもらっておりますので、近日どうにかサイトに上げます。

また社主代理持田の独断と偏見により

『技師ガーリン』復刊プロジェクト準備中です!

  1. 再電子化 PDFではなくEPUBリフロー化にしてマルチデバイスで読みやすく
  2. 再紙書籍化 一般書店流通に乗せずに文フリ等で限定部数販売
  3. 再映画化 ソ連映画を翻訳してミニシアターイベント(したい)

このメディアミックスを何とかできないか!どのような方法があり得るか調整模索中です。こちら改めて進捗報告いたします。乞うご期待!

追記:正しい表紙画像がネット古書屋さんのジグソーハウスさん入荷サムネイル(売切30,000円)で見つかりましたのでこちらを確認ください。下地の出てしまってるとこにこんな画像が乗るんですね。よくわからないけど作中「黄金島」双曲線光線を放つ灯台かな?イカす!

“『技師ガーリン』A・N・トルストイ【レビュー及び復刊プロジェクト宣言】” への4件の返信

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