【大復活祭!電誌「トルタル」5号発刊記念】「野川隆の放物線Ⅱ」詩編『數學者の饗宴』『哈爾浜風物詩』他【続きはトルタルで!】

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8月31日のこんな時間と言えば脂汗と涙の記憶しかなく夏休みの宿題などというものは児童虐待だと信じてやみません夏休み大好き社主代理持田です。さあ!とうとう開封!電誌「トルタル」大復活号でございます!本日8月31日正午リリースの際は私インドカレーを食べていたために、DL現場はこんな風景になりました!

トルタルとカレーのある風景
トルタルとカレーとチキンとナンのある風景

緑色のサグカレーと良く合う!本号が「満を持して」に相応しく非常に濃厚な復活号になっております。いつもの寄稿陣のトルタル愛溢れる連載も見逃せませんが、本号きっての目玉は『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』『BANKSY’S BRISTOL:HOME SWEET HOME』の翻訳者・毛利嘉孝氏、鈴木沓子氏へのインタビュー「バンクシーって誰」。

それがたったの0円!これは端末に落とさない手はありませんよ!

そしてもちろん今回変電社も頑張った!中表紙を野川隆の40代の肖像を利用してイラストレーター牧瀬”アリアリ”洋氏にこさえていただきました!ダダ!DADA!イカす!

「野川隆の放物線Ⅱ

前回記事の「野川隆電子書籍化宣言」たる「変電社第五宣言」として「野川隆の放物線」続編を寄稿しております。電子ではもちろん紙でもそう簡単に拝めない詩を10篇と「作者の言葉」を1篇、前回に続きでんでんコンバーター×BiB/iでEPUB本邦初公開としております。また彼の作品を追いながら真面目にバイオグラフィを追っております。どうぞご賞味ください。トルタルは作品はリンク紹介になるので、ビュワー画面つきで今回こちらに「変電社第五宣言ー野川隆の放物線Ⅱ」(抜粋)を紹介いたします。


野川隆「野川隆の放物線」Ⅱ 詩編

『満州短編小説集』滿洲有斐閣(1942)「作者の言葉」69頁(38コマ)より
『満州短編小説集』滿洲有斐閣(1942)「作者の言葉」69頁(38コマ)より

さて野川隆「詩」を公開いたします。20年代アバンギャルド運動の砲台から高く発射され大きな弧を描いて遠く海を超えて遥か北満の大地に確かに着弾した「野川隆の放物線」ですが、今回は「詩」の側面です。

既に今号の牧瀬洋氏イカす中表紙デザインであしらってもらっていますが、改めまして野川隆の顔写真もこちらに公開します。昭和16(1941)年7月芥川賞候補作となつた『狗寶』の頃なので、40歳の頃の野川ですが、戦後様々な形で語られる際(稲垣足穂、大岡昇平、平野謙、塙英夫、等)に若き野川の「美青年」逸話が必ず出てきます。野川隆が書生で住み込み「エポック」から一緒に活動していた玉村善之助(方久斗)家の奥さんの竹久夢二式美人と駆け落ちしたり、その後ハーフかと見紛う「邦子」夫人と再婚したりと。その玉村善之助(方久斗)の『世の中』昭和14(1939)という随筆集で語るところの「これらの若ものはきまつて長髪とラツパズボンといういでだちであつたし、藝術家気質の多い文芸道を口にしながら過激な社会問題に関心を持つものの如くであつた」若き詩人たちの肖像はまた別の機会に。

野川隆『數學者の饗宴』大正11(1922)年11月

大岡昇平『野川隆のこと 』より引用p15~16(9コマ目)
掲載先「海. 13(10)(150)」発行日:昭和56年(1981-10)出版社:中央公論社
国立国会図書館デジタルコレクション※「国立国会図書館限定」コンテンツのため複写サービス利用

『GGPG』前身の『エポック』での掲載詩ですが、前衛期当時の野川の詩に関して非常に理知的でモダンです。文学に物理学を持ち込んだ先駆者が「稲垣足穂」だと言われているが、「非ユークリッド幾何学の大立者でもある人の名を、日本文学の中に入れたのは野川隆君であることを諸君に銘記してもらいたい」と稲垣足穂自身が「『GGPG』の思い出」で明確に語っているところです。この稲垣足穂ですが、野川隆・孟兄弟と関係が深く、以前ブログでも野川隆の兄、孟が初代「江戸川乱歩」だったという話をに少し触れましたが、それを立証しているのも彼です。

「野川孟は最初〈江戸川乱歩〉で平井太郎の『江戸川乱歩』は第二次です。探偵小説の『江戸川乱歩』が野川隆のお株を奪ったというわけ。野川(孟・隆)兄弟は四谷の電車通うらの鍵手の入った所にある真四角な二階館に住んでいるとのことでした。空地にキャベツを作っていて、キャベツばかり食べているとのこと。この四角い家の話によって、私は一千一秒の中にある「自分のよく似た人」を着想しました。私は辻や高橋に代表される泥くさいダダを好みません。チュリヒ的なダダも日本に在ったということで「G・G・P・G」はもっと世間に知ってもらいたいと思っています」

—中野嘉一『前衛運動史の研究』沖積舎 p381

つまり知的に洗練された「チュリヒ的なダダ」と足穂に言わしめた『ゲエ・ギム・ギガム・プルルル・ギムゲム』(GGPG)ですが。このこの誌名について野川隆が創刊号後記にこんな言葉を残しています。

この名前について、じきに意味を聞きたがる人があるが、そんな必要はない。少なくとも、私一個人の解釈に依れば、音楽的な感覚をわかつて呉れればよい。蛇足を付け加へるならば、都会の街々に動く、機会で出來た人間的な動物人形には、Gの発音の振動数と波形が気に入ったのである

また、壺井繁治がその頃野川によって訳されたらしい「立体派詩集」は、あの萩原恭二郎詩集『死刑宣告』「日比谷」へ影響を与えたとも伝えています。その頃の翻訳詩をいくつか。

~(中略)~

野川隆『哈爾浜風物詩』康徳7・昭和15(1940)年5月

掲載誌『満洲観光(聯盟報). 4(5)』p12~15(8コマ目)
発行日:昭和15(1940-05) 出版社:満州観光聯盟
国立国会図書館デジタルコレクション※「国立国会図書館/図書館送信参加館内公開」コンテンツのため複写サービス利用
以前も詩編一部を紹介しましたが(【行って来たよ!】国立国会図書館図書館向けデジタル化資料送信サービス体験レポ【美味しいマカロニ】)その全文になります。野川渡満後の2年目の作品であり、個人的には持田が一番お気に入りの長詩です。「哈爾賓」とは言わずもがなで満州内陸中央に位置する「ハルピン」ですが、1896年ロシアが清国に東清鉄道を敷き交通の要衝としてロシア人を初めとする人口が急激に増加し経済の発展した純然たるロシア式市街を持つ植民都市です。

掲載誌「満洲観光」に相応しく、その「哈爾賓」観光としてその「旅情」を描きながら、その満州社会の矛盾を嗤うところの「風刺」、そしてその歴史への深い「憧憬」を、あますことなく歌い切っているように思えます。最終章で野川は「性格の異なつた哈爾賓の街に/哈爾賓らしさの要素の一つを/見逃すまひと若しも思つたら/高台のぼつて見はらすがいいのだ」と歌います。

帝政ロシヤのきづいた街の
生きたおもかげがそこから見られる
天空を指す寺々のドームと
計畫的に植えられた樹々と林の
こんもりとしたみどりの波うつなかに
忠靈塔の尖つたさきが
歴史の頁を突きさしてゐる他は
瑣末ものはその昔の
都市計画のなかに沒入し去つて
白系ロシヤ人の生活をきざむ
彼等の鼓動である寺々の鐘が
からんからんと響きわたるのだ

—『哈爾賓風物詩』

そして「私はかうした風景のなかに/植民地開拓のロシヤ人的な/地味で手がたいやり方を見たり/街や家の經營のなかに/生活に對する理解の仕方の/ロシヤ人らしさを見出したりして/それに眼をしばしば奪われる」と続きます。

静かな木陰に食卓をもちだし
自然と生活をせいいつぱいに
たのしみながらエミグラントに生きる
荒涼たる滿洲の曠野に
人工的な綠園を作り
そこを魂の故郷とさへする
さういふ彼等を見直さねばなるまい
新馬家溝は街はずれであるが
ロシヤがいちばん殘つてゐるのだ
菩提樹の林
修道院のドーム
如何にも田舎じみたロシヤのブフエト
そしてロシヤ女の羊飼や
ルパーシユカを着た牛飼などは
旅の人々からは振向かれないが
だからこそ
俗臭も少ない場末だ
私は此處に來て
はじめて息をつく

—『哈爾賓風物詩』

「荒涼たる滿洲の曠野に/人工的な綠園を作り/そこを魂の故郷とさへする/さういふ彼等を見直さねばなるまい」この吐露は野川の本音ではないか、と思われます。「私は此處に來て/はじめて息をつく」と。

~(中略)~


まとめとして変電叢書『野川隆著作集』のご案内

本年2014年は奇しくも野川隆没後70年です。今回変電社が一番乗りでEPUB化対応したからには今一度残されている野川隆の作品をかき集めて全てまとめみてやろうと目論んでおります。ここまでおつきあいいただいた方は既におわかりのように、時代時代の「キーマン」であったにもかかわらず、いまだにまともに野川隆の作品全貌をまとめられたものがないという事実にも驚きます。つまり今回これは「復刊プロジェクト」というよりは「初の編纂プロジェクト」になるわけです。なにはともあれ変電社として初のパブッリシングイベントになりますが、リリースは2014年12月23日。70年目の命日に世に出せることを目指したい所存です。乞うご期待!

変電社社主代理 持田

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